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芝川家の『年酒記録』 ~芝川店の新年~

以前からずっと取り上げたいと思っていた史料がこちら。


『年酒記録(自明治三拾三年)』(千島土地株式会社所蔵資料B01_006)

年酒とは、新年を祝うお酒または年賀のご挨拶に見えたお客さまにおすすめるお酒のこと。この『年酒記録』は芝川家が別家と店員を招いて開催した「年酒」、いわゆる「新年会」の記録なのです。「年酒」は1900(明治33)年に始まり1941(昭和16)年まで、途中 明治天皇、大正天皇が崩御された大正2(1913)年、昭和2(1927)年のほか、忌中などの理由で抜けている年もありますが、ほぼ毎年開催されています。

最初の記録である1900(明治33)年の『年酒記録』には当日の段取りや各部屋の飾り付のほか、誰がどこでどんなお手伝いをするのかまでこと細かく記録されています。これを繙いて、当時の様子に思いを馳せてみましょう。

1900(明治33)年の「年酒」は1月24日の午後4時から、伏見町芝川邸にて行われました。芝川栄助、芝川照吉らの親族をはじめ、芝川店支配人の香村文之助ほか店員、「芝川紙製漆器工場」の技術者である間瀬正信など20人以上の方々に案内状が出されています。

まず来会者は芝川邸西側の心斎橋筋路次口(ママ)より邸内に入り、待合、茶室に通されます。

待合席、茶室の飾り付はそれぞれ下記の通り。
※■は判読不能文字

待合席
幅:其角ノ鶯ノ句 置物:完瑛十二月ノ巻 軸盆:青貝ノ唐物 屏風:高齢張リ交セ

茶室
幅:呉春蓬莱山 置物:住吉蒔絵硯箱 花生:信楽 銘ねざめ 花:椿、菜種
卓:一貫高簾 煙草盆:桐 火入:金ノ瓢 炉縁:高台寺 炭取:さざへ
香合:梁付蝦 水差:金陽 棗:梅花ノ絵 蓋置:紅玉香炉 茶杓:如心斎鵲鴒
茶碗:一入ノ黒さざれ石 替茶碗:萩 菓子鉢:赤絵ノ魁 菓子盆:唐物ノ独楽
茶:銘(記入なし) 菓子:腰高饅頭、千代万代

お茶室でのお点前の後は、本家座敷より2階の広間へ。

座敷飾り付
幅:旧宅ノ図 直城■ 花生:花木蓮

西茶ノ間飾り付
幅:雪中梅 玉峯筆

二階西ノ間
福引品陳列

二階広間飾り付
幅:伊川院 鶴ニ松ノ三幅対 卓:一閑平卓 香炉:青磁 置物:桐料紙文庫 花鳥絵
花生:銅大花生 花:梅ニ椿 置物:天然石台付 画帖:反古張り

2階広間では全員が席につき、寛政2(1790)年創業の老舗料亭「堺卯」から料理人が出張して用意されたお料理を楽しみます。

献立
一、座附雑煮:ノシ餅、カシハ、亀甲形大根、牛蒡、数ノ子、ゴマメ
一、三ツ組金鉢:当主ヨリ二ツ左右ニ廻シ退席■壱個納杯ニ廻ス
一、取肴:玉子厚焼、百合丸煮、鯛切リ焼、牛蒡ノ銭切リ、蒲鉾
一、吸物:鯛千切リ 初霜
一、茶碗寿シ
一、肴:白魚ノ佃煮、フキノ塔
一、作り:サゴシ、鮭
一、肴:酢カキ
一、たき出し:新こぐり、鰕の皮むき
一、氷もの:蜜柑

膳部
一、 焼物:鯛
一、 煮物:さわら、うど、椎茸
一、 汁:味噌 すり流し
一、 向ふ付:赤貝、大根、木のこ

お酒もいただいて、お腹もいっぱいになりそうですね。

さて、お食事をいただいた後はお待ちかねの福引です。
福引の品物には、吹寄せ干菓子、西洋菓子、コーヒー糖、鶏卵、朝日ビール、籠入蜜柑、みるく一鑵、正宗一本といった飲食物から、煙草入、煙管、櫛・笄、傘、羽織の紐、がま口、棕櫚箒、桶といった日常で使う品物、煎茶茶碗、支那製頭巾、硝子菓子器やご隠居(初代芝川又右衛門)筆の「富士の図」、「からすの図」といった絵画までが用意されたようです。これは大興奮しそう。お座敷で大いに盛り上がる参加者の姿が目に浮かぶようです。

さてこの「新年会」、明治年間は伏見町芝川邸で行われていましたが、大正に入ると福引はなくなり、浪華橋灘萬ホテル、今橋ホテル、北浜日本ホテル、中之島大阪ホテル、北浜野田屋、堂島ビル9階清交社といった会場で食事会が開催されるようになります。

最後に、当時のメニューを数枚添付して本記事の締めといたしましょう。


▲1924(大正13)年 灘萬ホテル


▲1935(昭和10)年 清交社


▲1940(昭和15)年 野田屋


▲1941(昭和16)年 宝塚ホテル
(以上、全て千島土地株式会社所蔵資料B01_006より)

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