奉公人から身を起こし、銀行、損保会社、生保会社などを次々に設立して安田財閥を築き上げた安田善次郎。その安田翁は、自身の古希の記念に『明治成功録』を制作します。
『明治成功録』は明治時代に実業界で成功を収めた24氏を正客、政界の巨人10氏を客員としてそれぞれの肖像写真と筆跡を集めたもので、明治39年秋から3年の歳月をかけ、明治42年末に完成しました。
掲載された方々は次の通り。初代芝川又右衛門も栄えある正客の一人として掲載されています。
○正客
渋澤栄一
川崎正蔵
薩摩治兵衛
浅野総一郎
片倉兼太郎
岩崎弥之助
益田孝
平沼専蔵
高田慎蔵
川崎八右衛門
藤田伝三郎
前川太郎兵衛
村井吉兵衛
芝川又右衛門
諸戸清六
森村市左衛門
大倉喜八郎
安田善次郎
原善三郎
若尾逸平
神野金之助
古河市兵衛
岩崎弥太郎
茂木総一郎(惣一郎の誤りか)
○客員
東郷平八郎
桂太郎
井上馨
松方正義
大山巌
山県有朋
伊藤博文
木戸孝允
岩倉具視
三条実美
制作に際し、安田翁は各家に親書を送ってそれぞれの揮毫と近影を求めました。当初、正客は30氏の掲載が予定されていたそうですが、6家から資料が得られず、24氏の掲載となったといいます。いずれも全国から選りすぐられた創業の偉人達でした。
『明治成功録』は34部が作成され、完成後は各家に1部ずつ贈られたといいます。
しかしながら、安田翁より芝川家に贈られたであろう『明治成功録』の原本は見つかっていません。昭和19年に芝川家が刊行した書籍『芝蘭遺芳』に『明治成功録』についての記述があったことから、これまで社内はじめ国内の図書館や一部関係先を探したのですが、結局見つけることができませんでした。
木箱入りの大変豪華な装丁のこちらは、実は原本を複製したもの。昨年、芝川弥生子の資料として見つかった1冊です。
同封されていた書簡によると、この複製本は昭和8年に二代目芝川又右衛門が父・初代又右衛門が掲載された本書を複写して10部を作成し、子孫に配ったうちの1冊とのことでした。作成部数の少なさを考えると、複製品とはいえ、本書は大変な貴重書に違いないでしょう。
▲森村市左衛門氏
▲安田善次郎氏
▲藤田伝三郎氏
▲渋沢栄一氏
▲三条実美氏
▲伊藤博文氏
▲東郷平八郎氏
▲芝川又右衛門
それぞれが思い思いの言葉を揮毫する中、1人、又右衛門は“絵”を描きます。これは京都の蒔絵師の家の生まれで絵の素養があり、隠居後、晩年は毎日のように絵を描いていたという又右衛門ならでは。柿と栗は、“桃栗三年柿八年”の諺に因んだ図案なのでしょうか。
それにしてもこれだけの人々の揮毫を集め、1冊の本にまとめるとは、さすが善次郎翁、なんとも粋な“古希記念”です。
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